√3の事情

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  普通に別れて、 普通に冷却期間があって、 普通に他の人と 結婚に至ったという ごく普通の経緯であるならば── 私だって、韮沢と 普通に接することができたと思う。 どうあがいたって、 韮沢との別れもこの結婚も、 普通じゃない。 普通じゃないことだらけの この現実を相手に、 どう対処すれば普通になるのか 私には判らなかった。 ただ、韮沢の気配や声がする度、 じくり、と心臓から 血が出ているような痛みを感じる。 これがある種の 後ろめたさのような 影を孕んでいることは 判っているけど、 周囲の目を気にしながら 仕事をしている身で、 そんな感情を 掘り下げている暇なんてない。 .
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