その男、詐欺師

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  バッグの中から 鍵を出して開けながら、 完全にここは 葵くんと共有している 空間なんだな、 と意識する。 同じ部屋にいる時よりも、 同じ鍵をそれぞれ 持っていることで それを意識してしまうなんて、 少し恥ずかしい。 ドアを開けると、 葵くんに肩を抱かれて 一気に中に引き込まれた。 「ひゃ……!」 ドアの隙間から 玄関内に射し込む光の線が、 ゆっくりと狭まっていく。 それを見ながら、 身体を壁にやんわり 押し付けられる。 鍵のかかる音と 視界が真っ暗になったのと── 呼吸を飲み込まれたのとは、 同時だった。 「葵、く……」 「ちょっとでいいから、 黙って……」 「ふっ、う……」 .
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