その男、詐欺師

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  ばさり、と互いの手から 持っていたものが 落ちる音がした。 暗がりの中、 感じられるのは お互いの呼吸と 体温と存在だけ。 両腕を 押さえつけられながら、 口腔をやわやわと犯される。 もどかしくて、 葵くんの手を振り払い 彼のうなじに巻き付ける。 するとそれに応えるように 葵くんは私の腰を抱いた。 強引に引き出された舌を 軽く噛まれる。 それだけで 身体中に電気が走った。 「あ、……ん」 思わず声を漏らすと、 葵くんは大きく 溜め息をつき、 私を抱いたまま 肩に額を押し付けてくる。 「……葵くん?」 「どうして俺を避けたのか、 聞かせて欲しい」 「……!」 「こんななし崩しなの、 いやなんだ」 .
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