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ガシャァァン!!
突然、俺達のすぐ横の街灯が音を立てて崩れる。
「な、なに?」
「ぉいおい、魅せつけちゃってくれるなァお二人さん?」
背後から男の声。
振り返るとさっきまで通ってきた道の街灯が、ねっとりと耳につくその声の男の姿を照らし出す。
年齢は二十代前半、やや痩せ形といったところか。こんな状況ですら冷静に事を判断する俺の脳が忌々しい。
しかし、今はこの性格を呪っている場合ではなく、むしろよく活用すべきだ。
なぜ、街灯が崩れたときに、男は現れたのか。偶然にしてはタイミングが良すぎる。
それにこの男は俺達のすぐ横で鉄片と化している街灯に見向きもしていない。明らかに不自然な情景に平然としている。
そこから導きだした答は……あまり現実的とは言えないものだった。
「あーんまボーッとしてんなょ。それ」
男が右手で空を切る。
ガボッ
乾いた音と共に、歩道として埋まっているレンガが、冬乃の足元で弾けた。
「きゃっ!!?」
「冬乃!」
突然の出来事でバランスを崩した冬乃の体を咄嗟に支える。
「あ、ありがと」
「お前、今走れるか?」
「え?うん……」
とにかくこの怪現象に対抗する術が無い今は男から逃げるしかない。
「全力で家まで走れ。俺も必ず戻る」
「でも鈴矢……」
「いいから、早く」
最悪、冬乃だけでも逃がしたい。俺にはこいつ以上に親しい奴は居ないから。
俺の考えを察してくれたのか、冬乃は小さく頷き、帰路を駆けていった。
「ケッ、なに堂々とくせぇドラマやってくれてンだ」
男は気だるそうにそう言ったが逃げた冬乃を追い掛けることはしないようだ。
冬乃の足音が消えたのを確認し、再び思考を巡らす。
街灯、男、右手、崩壊……
認めたくはないが、この男にはいわゆる超能力というのがあるという考えに至った。
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