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ここで話は冒頭に戻る。
転倒で朦朧とする頭を男の手ががっしりと掴み持ち上げる。そのままこの男の細い腕によるものとは思えない程の力で再度後頭部から地面に打ち付けられた。
「か……はッ……!」
「これくらいでくたばるなよぉ?生きたまま連れてこいって話だからなぁ」
衝撃で全身がジリジリと痺れる。
『生きたまま連れてこい』……ということはこいつ以外の誰かが指示を出しているのか、そもそも何故俺を狙うのか。
クソ、頭が回らない……!
「抵抗されても厄介だからなぁ……ちと傷物になっちまうかもだが眠らすかぁ」
男が勢い良く拳を振り上げる。
俺の体は痛みで言うことを聞かない……
諦める形で、静かに、瞼を閉じてみた。
……冬乃は家に帰れたのだろうか。
あいつのことだ、警察に連絡入れて、俺の帰りを待っているか、もしかすれば今頃俺の事を捜しているかもしれない。昔から世話焼きで、いつも余計なお節介を掛けてきてたな……
ここで気付く
俺の意識がまだあることに対する違和感に
目を閉じてからもうしばらく経過しているというのに、男は俺を気絶させることができていないのか?いや、だとすれば身体のどこかしらが痛みを伴っているはず。
真相を確かめるため閉じた瞼を持ち上げる。
そこには、俺の目前で不自然に止まる拳と、不気味な笑みを一切崩さない男の顔があった。
なにが、起きている……?
痛む体を立ち上がらせ、辺りを見回す。この男だけじゃない。まるで世界そのものが止まってしまったような……
「……ッく……!?なん……だ……?」
突如、いままでにない感覚の頭痛が襲う。痛むというより、何かを勢いよく引き戻したような気分の悪い感覚。
頭痛が止むと、男の拳が音を立て空を切る。
「!?……ナンだとぉ?まさか、こいつもう……」
「そこまでだっ!」
動き出した世界にいきなり、大声が響く。
聞こえた方を見ると、良い感じに沈みかけの夕焼けをバックにしてマンションの屋上に立つ、一人の男がいた。
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