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通話を終えたらしく、陵木は携帯を耳から離すと、不機嫌な形相のままそれを元の場所に戻す。
「そいつはしばらくテメェらに預ける。だがなぁ勘違いすんナよ……」
俺と青年に背を向け、表情を見せることなく陵木は呟いた。
「いくら政府直営の施設で管理しよぉとな、慣れてねェ奴が躾にしくじったら世界が滅ぶゼ。特にそいつとリアはな」
世界が、滅ぶ……?
言葉の規模の大きさに、実感と理解ができない。だが、この現状におかれて「あるいは」と否定できない自分もいる。
「ああ、その点は心配するな。こっちは能力保持者は少ないけど最新機器のオンパレードだからさ。だからリアちゃんの方も早く引き渡してくれないかな?」
「……断る」
その会話を最後にして、陵木は街灯の無い夜の闇に消えていった。
「なあ、追い掛けなくていいのか?」
俺は陵木の背を見送る青年に声を掛ける。青年は俺の方に振り向くと口角を上げニッコリと微笑んだ。
陵木の不快な笑みとは違う、無邪気な笑顔。
「君を一人でここに置いていく訳にはいかない。君も気付いてるかな? この辺一帯の違和感」
確かに……と今まで口にしてなかったことを言葉に綴る。
「……今日はやけに静かで人が少ない。あいつから逃げているときにも誰一人として出会うことがなかったな。これもあいつらの『能力』によるものなのか?」
俺の推論に青年は「正解!」といって指を鳴らした。
「さすが、状況の読み込みが早いね鈴矢くん。……国が認めているだけはある」
青年……こいつはどうやら俺のことについて詳しく調べているようだ。陵木の言葉といい、こいつは「政府の人間」であるという認識で間違いないだろう。
「察しの通り、この異常な過疎現象は『阻害』という能力によるものなんだ」
「阻害……」
「本来は物質同士を一定距離以上近付けさせない能力なんだけど、『指定範囲に人を寄せ付けない』っていう使い方もできるんだ」
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