3人が本棚に入れています
本棚に追加
すると今度は様々なところから音楽が流れてくる。笛や太鼓の音、まるで祭り囃子のようだ。
「これは、……宴と言った方がいいのか?」
「ええ、そんな感じよ。まあ言うなれば”良い満月が見れたからそれを感謝する祭り”ってところかしら」
はぁ、と圭と廉が言うと、クロエの隣に熊が立つ。その熊は後ろ足で立ち上がり、圭たちに向かって一礼すると、
「私はこの森の長老のような存在です。今回はお騒がせしてしまい、申し訳ない」
「いや、俺たちは全然。どこかの早とちりが勘違いしてしまったのが悪いんです」
熊はそれはそれはと言うと苦笑いをする。一方、早とちりと言われた俊平は視線をそらし、圭たちを見ていない。すると熊が躍りをしている方向を見ると、
「実は我々、この町の影響を受けた動物ばかりでして。知ってるでしょう?この町の成り立ちを」
「ああ、もちろん。……なるほど、この地に住まう妖怪の障気を体に取り込んでしまって、妖力を得てしまったと」
圭の言葉に熊は頷き、今度は空を仰ぎながら、
「あなたがた人は障気を取り込めば体に害をもたらし、妖力が入れば徐々に異形のものとなる。しかし動物は違います。長生きすることで妖怪のようになる者もおり、また障気を取り込んだだけでこのようになります」
「え、つまり動物は妖気が身体にあると立ち上がったり喋ったり出来るようになるってこと?」
クロエは詳しくは知らないのだけどね、と言った上で、
「私のような猫又はどちらかというと付喪神に近いから、こういうことは起きないのだけどね。それに彼らは障気を発したりしないし、別段力が強くなるわけでもないのよ」
なるほど、と圭は頷き廉も分かったような顔をする。すると蚊帳の外にいた俊平が、
「要するに!今回の件は何だったんだよ?」
「簡単だ。彼らは何もするつもりはない、それをお前は何かするのではないかと思い込んでしまった。それだけだ」
圭の言葉にマジかよ……と呟きながら彼は元の姿に戻る。皆が苦笑いを浮かべると、熊がそうだ!と大声をあげると、
「皆さんもどうぞ参加してください!その方が盛り上がりますから!」
そう言って圭たちを躍りへと誘う。圭たちはそれぞれ顔を見合わせると、笑みを浮かべそのまま躍りの輪の中へ入っていった。
月はそんな彼らを明るく照らし続ける。その宴は一晩中続いたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!