ヒャクニチソウの花が咲く

8/15
前へ
/54ページ
次へ
「お前も退魔士だったのか。なら、なぜ俺たちを倒そうとするんだ?」 彼は一度空を仰ぐと渉を見た。その目は実につまらなそうなもので、そこには喜怒哀楽のいずれの感情もなかった。そして彼が口を開く。 「なあに、ある人物に頼まれてな、報酬は弾むと言ってたし。それにあんたらに恨みがあってやってるわけでもない。この子を連れてきたのは人質みたいなもん、だがあんたがいたからちと無理やり来てもらった」 「そんな事のためにだと……。そのためにお前は彼女の大切な店を、花をめちゃくちゃにしたってのか!」 渉が怒りの形相で言う。和哉はやれやれという顔で頬を掻くと、 「そんなに怒るな。あの花がそんなに大事なものなのか?……それにこの力を私利私欲のために使う人間なんてごまんといる、自分のエゴのために使う輩すらいるんだぞ?あんたらのように人助けのために使うなんて、よほどのもの好きさ」 「てめえ……!ふざけたこと言ってんじゃねえ!」 そう叫ぶと同時に渉が和哉めがけて駆ける。しかし和哉は動じず腰のホルダーからナイフを取り出す。銀色に鈍く光る刃、装飾などもされていない無機質なそれを柄を持つと、彼はそれを宙に放った。 すると1本だけだったナイフが、突如2本にも分裂した。さらにその2本が分裂し計6本に変わる。渉は立ち止まると驚いた顔で彼を見て、 「な、何だ今の!?マジックか!?」 「ま、手品の類といえば誤魔化せるだろうがここでは通じんだろう。これが俺の能力、触れたものを複数に増やすことができる。ま、あらかじめ触れていないと発動しないし物にしか使えない弱点はある、だがほぼ完璧に同じものを作れる上に際限無く生み出せる」 和哉は6本のナイフを両手にそれぞれ持つ。持っているナイフは最初に取り出したものと全く同じ形、色をしている。 「なるほど、面白い能力だな。けどそんなんじゃこの俺は倒せないぜ!」 「まあ、先程防がれたところを見て効かないのは理解した。だが……、どの能力にも必ず弱点がある以上、倒せないことはない。それに俺には別の特技もあってな」 何?と疑問を口にする渉。しかし和哉は黙ったまま。そのナイフを全て投擲する。 2人の距離、約3メートル。しかも薄暗い空間。ナイフは闇を切り裂き渉へ向かっていく。渉はそのまま立っている。 そしてナイフはそのまま進むと、渉の両手両足首と肩の関節部に”正確に”当たったのだ。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加