ヒャクニチソウの花が咲く

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そうだ、と和哉は答えると、 「俺は昔から、物と自分の距離をほぼ正確に測るという変わった特技を持っていてな。それも大雑把にではなく数センチや数ミリ単位で測れたのさ。まあそこまで使える場面はなかったが、数年前にダーツに出会ったことで変わったのさ」 「ダーツって、あのダーツか?」 ああ、と和哉は言うとホルダーからナイフを取り出し数メートル先にぶら下がっていた古ぼけた提灯に狙いを定め、ナイフを投擲する。するとナイフは正確に提灯の持ち手の部分を切り裂き、提灯を落とした。 「あんな遠くのものを、しかも正確に……」 「ダーツは的という限られた部分に矢を正確に当てるもの、俺の特技はさらに磨かれた。そして退魔士の能力、大したものじゃないがほぼ無限に矢を生み出せる、そこから俺はどんなものが矢でも投げられるよう筋力をつけ、能力も使いこなせるようにした。その後その力を様々に使っていたんだが、そんな時に”奴”は現れた……」 「奴?それはいったい誰だ?」 渉が訊ねるが和哉は答えない。彼の目には何か恐れるような、そんな感情が見えた気がした。そして意を決したように彼は告げた。 「奴は……、”悪”だ。初めて会った時、おぞましい雰囲気がしていた。丁寧な口調だがえらく不気味な笑みを浮かべていた。それに、……あれは”人間でも妖怪でもない”、もっと違う存在だ」 「人でも妖でもない……?そいつは何が目的でお前に近づいたんだ?」 「さあな。何が目的なんだか。……だが、俺たちを始末しようと思っているようだがな」 は?と言う渉だったがすぐに気配に気づく。そして桔梗を見ると、 「桔梗!急いでこっちに来い!早く!」 「え?あ、うん!」 桔梗が渉の近くまで走ってくる。しかし物陰から黒い影が飛び出してくると、走る彼女めがけて突っ込んでくる。 「まずい!ここからで間に合うか……、ええい!」 渉はそのまま走る。そして桔梗に影が襲い掛かる瞬間、渉が彼女の前に立ち攻撃から守った。すぐさまその影を殴り飛ばした渉は 「桔梗、大丈夫か?どこか怪我は?」 「私は大丈夫、それより渉君は?」 「俺の心配はいらないさ。それよりも……」 渉があたりを見渡す。するといつの間にか先程の怪物たちがいたる所から現れ、渉たちを囲んでいた。すると和哉が渉たちの前に立ち,さらに告げた。 「ここは俺が引き受ける。お前さんたちは早く脱出しろ」
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