第4話 just a pure angel

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雨が、降ってきた。 僕、並野普にとっては、好きでも、嫌いでもない雨が。 先程までの戦闘で、辺り一面に飛び散っていた血液が、雨に流されて、排水口へと消えていく。 刺し殺された死体から流れ出た血も、同様に。 凄惨だった現場が、瞬く間に、綺麗に洗い流されていく。 今の普には、そんな雨が少し恐ろしかった。 小杉の知っている話は、そこで終わった。 波野雨音が、生きることを諦めた時に、男であった小杉神哉も、意識を失ったらしい。 やはり、小杉神哉という存在は、僕や雨音の心と密接に関わった存在であることは間違いないようだ。 それから、次に小杉が意識を取り戻した時には、既に僕は並野普で、小杉の人格は女になっていたそうだ。 その時期は、僕の記憶として思い出せる、最初の頃と合致する。 波野雨音が願った、生きたまま死にたいという願いと、普通の人になりたいという願いは、僕という普通すぎるほど普通な存在が生まれたおかげで、叶ったらしい。 それが僕が生まれた理由。 それが僕がここに居る理由。 すぐに、「はい、分かりました」と、受け入れられるような話では、無かった。 それでも、これから少しずつ、受け入れていかなくてはならない、紛れもない事実なんだろう。 「クハハ。そうかい。てめぇはそうだったのかよ」 急に倒れていた男が声を上げる。 さっきまで小杉と戦っていた、“just a pure murderer”が。 「てめぇって?」 「お前さんだよ兄ちゃん。てめぇは、ただの身体の貸主だったわけじゃねぇんだな。てめぇも俺らと同じ、借りる側か。でも、俺らとは違う。てめぇは、偽物なんだよぉ」 偽物。 その言葉が意味するものは、何か。 今の僕には分かる。 “just a pure murderer”は、自分や小杉のことを、“オリジナル”と呼んでいた。 それに対する、偽物・・。 そう。 つまり。 僕は・・・、 危脳マルだ。
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