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ひとつ、ふたつ、みっつ、……じゅう、じゅういち、じゅうに。
周りも騒ぎ立てるのをやめる。
時計は鳴りやみ、静寂が部屋に満ちた。男は洗練された手つきでサイコロを振り出す。私も震える手でダイスを振り出した。
カラ、カラ、カラと乾いた音が響いた。息をのんで出た目を見る。
「九」「十三」
合わせて二十三。奇数。
「お姉さんの負け!」
次の瞬間。ぎい、と後ろの扉が開く音が聞えたと思うと、周りにいる人間に、椅子から無理やりたたされて、部屋から引きづりだされ、ドアからポイッと放り投げられた。扉が閉まる前に目に入ったのは、「またね」と言って笑顔で手を振る少年の姿……。
その後は近くのファミレスで一夜を過ごした。翌朝、勇気を出して玄関の扉を開けたが、それは元通りの私の部屋で、昨晩の狂気はかけらもどこにもなかった。
いや残ったものが一つだけある。
「お尻痛い……」
乱暴に放り投げられた時のこの痛みが昨晩の体験の唯一の証拠。(誰に話しても信じてはもらえないけど)
そして今晩。八月の満月の夜。
乱暴に開くエレベーターからでると、あの奇妙な弦の音楽が聞こえて来た。
その時。仕事のストレスはどこかに(おそらく地球外に)ふっとび、違う種類の苛立ちが全身から沸き起こり、お尻の痛みが蘇ってきた。
今宵こそは、あの少年……。いやガキに勝って、先月のお尻のお礼をしてやる。
私は鍵を片手に歩くスピードを速めて、自宅へ向かった。
END
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