第1章

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 それは7月にはいってまもない満月の夜のこと。  私は、仕事でくたくたになった体を引きづりマンションに到着し、エレベーターに乗り、5階びボタンを押した。  古いエレベーターの扉は乱暴に閉まり、湿っぽい駆動音を発し。緩やかに上昇し始めた。  常日頃襲う倦怠感から逃れるため、学生時代から住み慣れた土地を離れて(仕事を変える勇気はなかった)生活を一新しようと決心、このマンションに引っ越しして早三週間。でも……。 「なにもかわってないじゃんこれじゃ」 とひとりごちる。  まあ、特に自分からご近所づきあいもしていないんだし、そりゃそうですよね。   そんな風に自虐的に考え込んでいる間に、エレベーターは停止し、扉が閉まった時と同じように乱暴に開いた。その時。生暖かい空気と共に、奇妙な音楽の音が聞こえた。  耳触りはギターの物に似ていると言えば似ているが、似てないと言えば似ていない、 そしてその音は自分の住んでいる部屋に近づいていくうちに大きくなってくる。  今朝あわてて出て行ったからテレビを消し忘れたか?  急いで鍵を回し玄関をあける。やはり音楽が聞こえているのはテレビのあるリビングだ。靴を脱いでスリッパもはかず、廊下を進みドアを開けた。  すると眼下に飛び込んできたのは、無数のコインが積み上げられた大きなテーブルを囲み、トランプを片手に談笑している複数の奇妙な男女数人。(明らかに日本人ではない)壁には大きな古時計がかけられカチン、コチンと時を刻んでいる。 なにこれ?恐怖を通り越して呆然となる。  すると、その一団の一人に「ねえ、お姉さん」と声をかけられた。  私は声の方に視線を向ける。  声の主はギターによく似た楽器をもてあそんでいた。顔には涙ほくろが一つあり、桜色の唇。髪の毛の色は金色。怪しく光る青色の瞳。少し団子鼻なのが気になるが、相当なイケメンだ。 でも顔立ちにまだ幼さが残っており、私よりも明らかに年下だ。(ちなみに私は20代後半)もしかしたら15歳くらいかもしれない幼さ。  男は「えーと」といって、ギター?を脇に置き右手を差出して、 「まあ立ち話もなんだしおかけくださいな」  と、言った。私の体はたちまちそばにいた男たちに担がれ、少年の対面に座った。  「ようこそ。わがカジノルームへ」  唇の端を上げて、挨拶する少年。 「いや……ここ私の部屋なんですけど」 
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