Venus

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ー風が、吹いている。 キラキラとした日差し、明るい空色。 桜色の風に乗って香る僅かな花の匂いは並木に咲いた色とりどりの花達のもので、それらは新しい環境に不安を抱く俺たちに優しく語りかけているようで、穏やかな気持ちになる。 穏やかな春の陽気、とはありきたりだけれど、その言葉にぴったりなほど今日は明るい、まさに春日。 外に出るのはだいぶ久しぶりだったため、少し歩いただけでもすぐ喉が渇く。 僕は通学用のカバンから先ほど買ったお茶のペットボトルを取り出して、口元へ持っていった。 …ついこの間まで、自分が"普通の高校生"になれるなんて思ってもみなかったな…。 「おっ…と?!」 ぼーっとしたままペットボトルを傾けようとして、僕は慌てて口を離した。 「…マスク、してたんだった。」 顔の半分以上を覆っている暑苦しいマスクを顎まで下げて、今度こそペットボトルに口をつける。 まだ冷たいままの水は、音を立てながら一気に僕の喉を降りていき、一瞬乾き始めていた心もじんわりと解きほぐしていった。 「…慣れないなぁ。」 戻したマスクの上からそっと自分の唇をなぞる。
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