悪夢の始まり

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 それから、慌ただしく日々は過ぎる。式の後は新居への引っ越しに追われ、気がつけば春休みも終わっていた。  始業式の朝――登校すると、校門から校舎への道は初々しい新入生と部活動の勧誘で溢れていた。その間をすり抜け、生徒玄関へと向かう。 「円、おはよう」  靴箱の扉を開けた時、麻実(あさみ)が小走りで駆けてきた。 「おはよ」  その姿を見て、私も挨拶を返す。 「今日バスだったでしょ? 見たよ」 「ああ……うん」 「引っ越しても自転車で通えるって言ってたのに、何かあった?」  早速指摘されて言葉に詰まる。新居に引っ越してから、以前より通学距離が長くなってしまった……のは本当なのだが、通おうと思えば全然通える距離だった。 「……ちょっと寝坊して」 「ふぅん。それよりさ、新しい家どう? 新築なんでしょ?」  麻実には母の結婚ことも、引っ越しのことも全て話している。ただ一点を除いては。  地元では名の知れた高級住宅街、その一等地にある新しい家。  これまで質素な暮らしをしてきた私達にとって、これほど似つかわしくないものはない。 「いいよ。綺麗だし……片付いたら遊びに来てね」 「うん。行く行く! それにしても円のお母さん羨ましいなー。玉の輿でしょ?」  私は曖昧に笑った。今では母のことを羨ましいと言う麻実に、素直に頷くことなどできなかった。  それに本当は――片付けが終わっても麻実を家に呼ぶことは出来そうにない。
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