追憶

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 けれども、そんな決意に迷いが生じる日が遂に来る。  修学旅行の夜のこと。円の友人の梶川麻実からの告白された。 「他に好きな人がいるんだ」  そんな人はいない。でもあと腐れなく断るには丁度よいと思った嘘。しかし、返ってきた言葉は予想外のものだった。 「有坂くんって、もしかして……円のことが好き?」 「え?」 「ごめん、なんとなく円を見てるかなぁって……そう思っただけ。違うならいいの」  梶川は反応を伺うように俺を見た。そんなところを見られていたのか、と内心ヒヤリとする。 「ここだけの話だけど、俺の父親と北見さんの母親が再婚したんだ。だから彼女とは兄妹。好きになったりなんか、するわけないよ」  梶川は最初驚いていたが、思いあたるふしがあったようで妙に納得していた。しかし円とはこのことは言わない約束だったから、梶川には一応口止めをしておく。 「いいよ。分かった。円にはこれまで通り知らないふりをしておくね。でも……血が繋がってない兄妹なら、好きになるのに関係ないんじゃない?」  真っ当な正論を吐いた梶川に、貼り付けた笑顔で答える。 「関係あるよ。家族になったら、そういう感情はわかないんだ。俺は」  よく言ったものだと、自分でも思う。その妹に何をしているのか、この場で言えもしないくせに。  全力で心の奥底の感情に蓋をして、俺は梶川と別れた。そして、円とコウが言い争っているのを見つけたのだ。  泣いている円に、迫るコウ。その瞬間、沸騰するような感情に襲われる。  思考するより速く、俺は円を連れ出していた。
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