追憶

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 円を抱いた後、足取り重くホテルの部屋に戻ると不機嫌そうなコウが待っていた。 「北見と何してたんだよ。こんな時間まで」 「……家族の話だよ」  そう言っておけば、部外者のコウは詮索しにくいだろうと思った。浅はかな計算。 「嘘つけ、顔を見るのも嫌だって、嫌ってたじゃねーか」  どうやら、コウは想像以上に溜まるものがあったのか、追求の手をゆるめない。 「それとこれとは別の話だよ」  確かに、コウには愚痴ったことがあった。円が何も知らずに、不倫略奪婚の二人を祝福しているのを見て、苛立っていた頃のことだ。 「納得できないな。比呂と何があったって聞いたら、泣き出したんだぞ……北見。何やってんだよ」 「コウこそ、どうしたんだ? 円のこと気にして、好きにでもなったのか」 「馬鹿言うな……おれは」 「それじゃあ、お前には関係ないな」 ピシャリと言ってはねのける。 「あっそ! じゃあ勝手にしろよ!」  コウは俺に背を向けてベッドに入ると、それっきりこちらを向かなかった。  コウを怒らせるのは、分かっていた。だけどどうして、本当のことなんて言えるだろう。  そうして結局、俺は修学旅行二日目の自由行動をぼっちで過ごす羽目になったのだから、笑える。
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