追憶

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 それからの俺は、自分の感情を押し殺すように円との関係を続けた。  しばしば苦しげに顔を歪める円を見るたび、幾度となく言葉がこぼれそうになる。  ――ごめん。  こんな歪な関係じゃなくて、もっと真っ当に円と向き合うべきだ。分かっている。  だけど、手放せばきっと二度と触れることは叶わなくなる。意気地のない俺は、決断を先伸ばしにした。  そんなある日事態は急転する。円が良子さんの不倫をやめさせたいと言い出したのだ。  それはいけない。円が良子さんと自分の「秘密」に近づいてしまうと思った。  本当の父親と、自らの出生の秘密。知らない方がいいに決まっている。俺ならそう思う。  だから、協力をしてほしいと言う円にはその場で断った。  しかし、俺は円の行動力を少し甘く見ていた。  それは学校が夏休みに入る、一週間ほど前のことだった。円が突然学校を休んだ。  俺が家を出るとき、まだゆっくり朝食を食べていた円を思い出す。そして、直感した。  とりあえず、適当に理由をつけて学校を早退する。そして円を探し始めてすぐ、かつて二人で行ったホテルの前のカフェで円を見つけることができたのは、本当に幸運だった。  ――絶対に円と本当の父親会わせてはいけない。でも、どうすれば? 「学校を無断欠席なんかしたら、家に連絡いくに決まってるだろ。もう少し考えて行動しろよ!」  まだ父親に会った様子がないことにホッとする。しかし同時にその行動の軽率さに怒りが込み上げてきて、思わず声を荒らげた。  しゅんとして小さくなる円を見て、徐々に冷静さを取り戻す。  問題はここからだった。 「私が、軽率だった。だけど、比呂くんこそどうしたの? 早退したって、瀬戸くんに聞いたけど」 「私のこと止めに来たんでしょ? そんなに焦って」  俺の行動を不審に思った円からの問いに、上手く答えられない。 「比呂くんは探偵使って調べてたんだから、きっと詳しいはずだよね。私がそれを知ったら、何か困るの?」
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