追憶

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 だけど人生そんなに甘くなかった。結局、全ての秘密は露見する。  家族はめちゃめちゃに。円も…… 「無理しなくていいんだよ? 普通の人間なら気持ち悪いに決まってる」  絶望にうちひしがれたような顔で、彼女は自らを否定した。 「そんなこと……俺は」  思ってない。当たり前だ。 「嘘だよそんなの。口ではなんとでも言える」  円は俺を拒否する。信じられないと言う。どうすれば信じてもらえる? どうすれば。 「じゃあ、どうしたら信じてくれるっていうんだ。確かに、俺が今までしたことは簡単に許されるようなことじゃない。許されるとも思ってない。それは前も言った。だけど、俺のこの気持ちだけは信じてくれないか。でないと、俺はどうしたらいいんだ」 「そんなの知らないよ! 私にだって苦しい……他の女のために、私に優しくしないでよ。私を言い訳に使わないで。好きな人がいるなら、さっさとそっちへ行けばいいじゃない!」  悔しくて、無意識に唇を噛み締める。口の中に鉄の味が広がった。  円を苦しめている。だけど、言い訳なんかじゃないから。この気持ちは、この気持ちだけは。 「違うんだ……俺は、円が好きなんだよ。信じてもらえないかもしれないけど」  永遠に俺の心の中だけにしまっておくはずだった言葉。  円を困らせるだけだと分かっていたが、俺の気持ちを誤解されるのはもう嫌だった。  あんなに傷つけておいて、好きだなんてどの面下げて言えるのか。俺が円なら、そう言ったかもしれない。だけど、円は言わなかった。
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