そして、それから

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 退院の手続きを終えて病院を後にする。  玄関の自動ドアを抜けると、「あっ」という妙な声がしたような気がした。  しかし周りを見渡すと、病院の駐車場に俺を見ている人はおらず、一瞬気のせいかと思う。  ――違う。  後ろを向いて、他人のふりをしている奴がいる。  俺は石化の魔法にかけられたようにピクリとも動かない彼女にそっと近づくと、トンと肩を叩いてみた。 「何してるの、円?」  円はビクリと肩を震わせると、恐る恐るこちらを振り向く。そして、怯えたような目で俺を見つめた。 「普通に迎えに来て欲しかったな」  瞬間、円の瞳からボロボロと涙が零れ落ちる。 「……ごめんな゛さい……私っ、私のせいで……っ……」  しゃくりあげながら紡ぐ言葉には、こちらまで苦しくなるような悲愴感がある。  俺は気にしてなんか、ないのに。 「事故のことはもういいよ。怒ってないし。ただ……ちゃんと前は見て歩いて欲しいけどね」 「……っ、はい……」 「そんなことより、どうしてお見舞いに来てくれなかったの? 過労で倒れたのは知ってるけど、ずっとじゃないだろ」  そう言って、円に少し意地悪な視線を向ける。  すっかり涙が止まってしまった円は、ばつが悪そうに視線を泳がせた。 「……こ、こわくて……」 「怖い? 俺が?」 「そうじゃ……ない」  円はブンブンと首を横に振る。 「比呂くんに会ったら……私、どうしたらいいのか……分からなかったの」 「それは俺も同じだよ。入院中、ずっと考えてた。円に会ったら、なんて言おうって。 言いたいことや聞きたいことはいっぱいあるんだけどな」  いざ会えたら、嬉しくて。散々考えたかっこいい台詞とか、頭の中から吹っ飛んだ。 「事故の直後、とてもリアルな夢を見たんだ。死にかけみたいな俺に、円が泣きながら死なないでって懇願すんの。それで、もう俺のことは許すとか、恨んでないとか……好きなの、とか」
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