そして、それから

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 俺が話す間、円の顔がどんどん赤くなっていく。それを面白いと思うと同時に、どうしようもなく可愛いと思った。 「リアル過ぎて、現実かとも思ったんだけど……あんまり俺に都合が良すぎて、あり得ないよなって思って。もし生きてもう一度会えたら、どっちなのか確かめたかったんだ」  この時点で、顔から火を吹きそうなくらい赤面している円からは、答えを聞かずとも明らかなように思えたけれど。 「だから、ねぇ円……どっち? 夢かな、現実かな?」 「そ……その手には乗らないから!」  もう一度、あの再現をという俺の思惑は外れ……外された。  意地っ張りで頑固で、思い通りには動いてくれない。その方が円らしいといえば、らしい。  至極残念ではあったが、肯定も否定もせず、恥ずかしさから顔を背ける円はやっぱり可愛くて、それなりに満足はできた。  だから、今はまぁ……いいか。 「ねぇ円、キスしていい?」 「え……!?」  俺の言葉に、円は一瞬固まり、そして周りを見回した。病院の駐車場は、それなりに人の出入りもあって、かつ玄関から丸見えだった。  あからさまに狼狽える円は、端から見ていると結構面白い。 「さすがに冗談だよ、帰ろっか」  そのまま見ているのもよかったけれど、あまりからかうのもかわいそうだったから。  キスの代わりに手を差し出すと、ホッとしたような円はためらいがちに手を伸ばす。 「帰ったら、いくらでもできるからね」  手と手が触れあう寸前、ピタリと動きを止めた柔らかで華奢なそれを、俺は少し強引に掴むとしっかりとと握りしめた。  バス停までの道を、二人手をつないで歩く。こんな日が来るなんて、あの日は思いもしなかった。  人生って、何があるか分からない。だから、この奇跡を何より大切にしたいと思う。  今、君が隣で笑ってくれるこの時を。
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