163人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
「円、新しいクラス、張り出されてるよ！」
玄関を入ってすぐ、廊下の掲示板にちょっとした人だかりができていた。
私の高校は、新学年になるとクラス替えがあるのだ。
そして掲示板を見てすぐ、麻実は歓喜の声を上げた。
「やった！ 今年も一緒だよ」
麻実は私を見てにっこりした。
私も素直に嬉しかった。次の――瞬間までは。
「あ、ヒロ様も一緒だ！」
麻実の一言に、内心凍りついた。最悪だ。
「あ……本当。良かったね！ チャンスなんじゃない？」
「えへへ……そうかなあ。でも彼女いるかもだし」
私は悟られぬよう、自然な言葉を紡ぐ。
ヒロ様こと、有坂比呂。その端正なルックスに加え、サッカー部唯一の一年生レギュラーを獲得。その上、成績も常に上位という……まさに隙のない完璧な男。入学早々ファンクラブができ、一部の女子は彼に尊敬の念を込めて「ヒロ様」と呼ぶらしい。
その話を聞いた時は正直寒いと思ったが、本当の話なんだから仕方がない。
去年は別々のクラスで、私は麻実から聞くまでそのことを知らなかった。
その時には母の結婚話は進んでいて、比呂くんにも会っていた。
けれど、比呂くんに熱を上げる麻実を見ていると、とうとう言い出すことができなかったのだ。
だから、新しい兄弟ができたこと、それが比呂くんであることは麻実にも秘密だった。そのために、名字も卒業までは変えずないことにしている。
最初のコメントを投稿しよう！