第1章

116/118
47人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
 千都が、まじまじと瞬を観察していた。男性の愛玩種の人形系は非常に少なく、事例が少ない。男性版は、女性の愛玩種程、需要がなかったのだ。人形化といっても、本当の人形になるわけではない。ただ、姿が観賞用に変わってゆくというものだった。  ただでさえ問題が多いのに、更に加わるのは不幸であった。瞬が、がっかりしていると、千都が笑っていた。 「何とかしてやるよ」  千都は不敵な笑いになっていた。 「本当?」 「約束」  指切りしてしまった。瞬は、自分の小指を見て、真っ赤になってしまった。指切りしたのなど、瞬は生まれて初めてだった。 「…帰るよ」  愛玩種の人形化を止める方法は、文献に載っていたので、千都はとっくに知っていた。先ほど千都が言った事と反対で、成長を止めることだった。瞬が成長を止め、このままの姿で居ることが、人形化を止める方法だった。 「ちょっと止めるが遅かったかな」  千都が、瞬の後ろ姿に呟いていた。瞬のガラスのような瞳、柔らかい髪、少年の顔にきつい表情。誰の所有物にもならない強い意志。全て、都築の母にそっくりで、都築血族の好みなのだ。もう、千都にも溜息しか出ない。  都築家として、瞬に執着してしまっているのだ。  瞬が家に帰ると、山口が訪ねて来ていた。山口は、姿が若く見えるが、城戸崎と同じ年なのだそうだ。 「隠居しましたが、確かに、まだ未練が残っていました。北に子供を増やしたい」  山口は北の出身で、長く医師をしていた。子供も医師で、孫も医師になっていた。医師でも治療や患者に興味はなく、ただ、様々な怪我や病気の経過を観察し、治してゆくことが楽しかった。患者を見ない医師であった。それが、隠居してから、人に興味が出てきたのだ。のんびりとした北の人々。彼らの悩みを聞き、生まれて初めて、助けたいと思ったという。 「北は、他民族との交流が少なく、民族の血が濃いのです。このままでは絶滅するでしょう」  しかし、新しい血を多く取り込めば、民族というものが失われる可能性もあった。  瞬が、元レストランでお茶を出すと、山口は音を立てて飲んでいた。姿は若いが、行動は年寄に見えた。 「そこで預かって欲しいのです、北の遺伝子です」  瞬の前に、ジュラルミンの大きなケースを出されていた。 「これは、預かり屋に持ってゆけば良かったのではないですか?」
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!