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「雪村さんの御使いが、八割まで戻ったら、『死から来た者』に逃げよう」
それまで、瞬が事前に写真を撮り、移動場所の無事を確認しては、空間転移を繰り返すことにする。
しかし、敵の察知能力も高い。すぐに転移場所を特定されてしまった。
転移の繰り返し、緊張の連続で、瞬も武蔵も疲れきってしまっていた。雪村の結界の中ならば、世界からも隔離されているが、それでは雪村が能力を回収できない。
瞬と武蔵は、常に雪村の結界内に居ることができるが、雪村だけは結界から出さなくてはいけない。雪村が出ると、相手が直ぐに察知してしまっていた。
「御使い、六割は戻ったよ」
雪村は動けなかったが、言葉は戻った。時折、雪村は、自分の護衛に連絡を取り、状況を伝えていた。雪村にも、信じられる護衛が幾人かは居たのだ。
ビルの屋上に雪村が結界を張る。眺めはいいが、その分、相手にも見つかり易い。『神の御使い』の内部も分裂を始めていたが、警察は変わらず、瞬と武蔵を誘拐犯だと追ってきていた。
ビルの上には、サンドイッチの差し入れが置かれていた。雪村、察知能力が高いのか、毒は入っていないよと、教えてくれる。
「しかし、君たち、すごいね、逃げるのが。慣れているというのか…」
慣れたくはないのだが、確かに、今までも、まともな生活ではなかったのかもしれない。
「助けを求めたいけど、俺達、権力者に知り合いはいません」
「そうだね、俺もだ」
でも、雪村の状況を聞いて、不利な立場と知りつつも集まってきた護衛達が居た。
ビルの影から、護衛数人が見張っているのが分かる。
「雪村様、我々は雪村様の護衛です」
雪村を奪われ、一旦は絶望した護衛達が今度は死ぬ気で来たと言っていた。
「どこまでも、戦わせてください」
そこで、雪村は空間転移ではなく、車で街中を走り抜けることにした。
「八割まで達したら、自力で能力を呼び回収できます」
走る車に、追ってくるパトカーがあった。パトカーに追われつつも、雪村が何かに集中していた。
「八割」
雪村が叫ぶと、結界を一気に取り、能力を回収した。
「このまま、境界線までお願いします。俺は、『死から来た者』に亡命します」
雪村が、護衛に別れの挨拶をする。
「今まで、本当にありがとうございました」
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