第1章

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 護衛達が付いて行くと言ったが、雪村はきっぱりと断った。護衛が『神の御使い』を抜けることは許さない。問題があるのは、自分だけだと、雪村は説得していた。  『死から来た者』に帰るのならば、やっと呼ぶことができる。瞬は、車の窓を少し開けて外を見る。 「海晴!」  声で呼ばなくてもいいのだが、きっと、海晴には届いている。  車を追うパトカーが、道のあちこちから飛び出してきた。周囲の道という道は、パトカーだらけになっていた。 「これ以上、車での逃走は無理かもしれません」  狭い路地にも、パトカーが待っていた。  車を降りると、武蔵が空間転移をかけていた。しかし、空間にも検問がかけられるらしい。検問の前で、強制的に地面に落ちた。 「走れ!」  検問に居た警官が、瞬を見つけて追ってきていた。今度は走って逃げるのだが、雪村も復帰したのか、自分の足で走り出していた。  境界線を越えなくてはならない。瞬は、見えない線を追っていた。 「……海晴!」  海晴は、瞬の危険を見ることができる。もし見えているのならば、瞬は、自分を見つけて欲しかった。 「海晴!」  瞬が、森に向かって叫んでいた。きっと、海晴はここに居る。 「瞬!」  森の中に、海晴が立っていた。そこが境界線なのだろう。  瞬が、海晴の横を過ぎると、倒れ込む。武蔵も雪村も、同じく倒れ込んでいた。警官は、境界線で立ち止まり、海晴に殴り返されていた。 「彼らは、犯罪者…引き渡しなさい!さも…」  言葉の途中で、海晴が警官を殴り飛ばす。海晴に殴られると、十メートルは後ろに飛んでいた。 「ここからは、『死から来た者』の領土になる。手出しするな!」  瞬が、走り疲れて休むと、隣で武蔵も休んでいた。 「海晴、素手だよね…」  瞬に向かって銃声が響く。海晴は、銃弾を素手で掴んでいた。 「…素手なんだよね。俺も、毎回骨を折られているけどさ、バカ力、加減なし」  海晴は、素手で銃弾を掴み、鉄でも殴り壊す。車も投げられれば、強靭な脚力も持つ。海晴の素手は、既に素手ではない。海晴は、自らが武器なので、武器を持たないだけなのだ。  このままでは、『神の御使い』の警官が殺されてしまう。 「海晴、もういいよ、帰ろう」  海晴は、まだ気が納まらないのか、警官を睨んでいた。 「御使い様を渡しません!」  渡すも何も、雪村は自分の意思でここに来ているのだ。
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