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次第に、止めろの呟きが、空気に溶けるようになった。吐息交じりというのかもしれない。都築の体臭は、強い酒のようで酔うのだと昔、瞬は聞いていた。
「止めてもいいのかな?」
「…ダメ…」
光流の頬がピンクに染まっていた。
「…なら、言って。秘密は何?」
瞬を殺せと命じたのは、『黒術死』の幹部だった。光流のような末端が、何故知っていたのかというと、光流の姉が幹部の愛人なのだそうだ。姉の指示で、自分も上に登るべく、光流は、瞬を殺しにきたのだ。
光流の躰がよじれて宙に浮き、落ちる。繰り返し、繰り返し、白い背が、浮き出る肩甲骨が、まるで違う生き物のように見えた。光流の背に汗が滲み、もう、言葉は出てこなかった。言葉の代わりに、熱い吐息だけが漏れていた。
「ぁ…ん…あ…ん…」
「いい子だ。ここに、もっといいモノをあげるからね」
光流が、何度も頷いている。
光流は、都築にすっかり落とされてしまっていた。
「…とんでもない、落とし方…」
武蔵は、でも、しっかり見学していた。
【終末の旗】の戦闘員の性別、年齢、能力。都築は、しっかり記憶したらしい。
「じゃ、続きは、子供にはきついからね、場所を変えるとするよ」
やっと都築が、出ていってくれた。
「相変わらず、ですが…」
行為はともあれ、瞬と武蔵に、【終末の旗】の情報を与えていた。戦闘員の内容が分かれば、対策も打てるかもしれない。
水元の文字で、いざという時に、このビル内に、海晴は空間転移できなくなることも分かった。
水元とビルの外に出て、状況を確認すると、一台のワゴン車が激しく揺れていた。
「…あ、あ、…ああ」
中から光流の甘い声が響いていた。
「もっと、…もっと」
都築、ずいぶん近場で済ませているらしい。ワゴン車の揺れは激しい。
「水元さんとかは、都築さんの洗礼は受けていないのですか?」
武蔵の質問に、激しく水元が首を振った。
「都築さんは、俺達の上司にあたりますが、そのような関係はありません。そもそも、都築さんは、職場恋愛は禁止していますしね」
それでも、都築の悪癖とも呼べる、あの能力のせいで、酷い目にはいつも合うのだそうだ。極悪犯を生け捕りにしろとかは、日常茶飯事だった。そのせいで、幾度も怪我を負っている。射殺のほうが、ずいぶん楽だった事件も多い。
「それよりも、海晴は、壁を通り抜けできるようにしなくてはいけませんね」
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