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能力を抜かれて廃人の状態になった、青年が一人いた。
「多分、御使いだろうな」
能力が大きいほど、抜かれた反動は大きい。青年など、放っておいて逃げると思ったが、何だかそうもいかなかった。
「やっぱり、御使いを置いていけないよな…」
武蔵も、かつては『神の御使い』の一員だったのだ。御使いを見捨てることができなかった。
そこで、連れて逃げることにしたのだが、やはり拉致のプロなのか、建物には結界らしきモノが張られていた。空間を移動する転移では、うまく飛べないのだ。
建物一つ出るのに、空間転移を十数回も行ってしまった。むしろ、歩いた方が早かったかもしれない。
「外?か?これ?」
塀を超えると、直に、街中になっていた。細い路地が、無尽に通っていて、高い建物が連立していた。まるで、空も見えない。
外も、まるで、建物の中のように感じた。
「とりあえず、出たのか?」
抱えている青年も重い。走って逃げる事もできずに、周囲の様子を伺いながら、人目を避けた。
基本、『神の御使い』も『死から来た者』も街の構造は似ている。そう、思いたかったが、『神の御使い』の方が、人間社会よりも離れていた。人間との、共有が薄い。
共有が薄い分、外部の人間だと、すごく目立ってしまうのだ。
「そこに、御使い様と、誘拐犯です!」
しかも、何故か、瞬と武蔵が、御使いを誘拐していると、『神の御使い』の連中まで追いかけてきたのだ。
「こっちです!」
転移先にも、すぐに通報者が現れる。走って逃げても、青年を抱えているので、スピードが出なかった。途中、置いてあったバイクで逃走したりもしたが、また、すぐに見つかってしまった。
そこで、やっとの事で街を抜け、山に籠っているのだが、瞬にもどうしてこうなったのかは分からない。『神の御使い』が、事情を聞いてくれるのかも分からない。
たった一日のことなのに、『死から来た者』を出た時が、遠い昔のような気がしていた。兄の高瀬や、海晴は瞬と武蔵を誘拐犯と思うのだろうか。瞬の現状を高瀬が知ったとしても、瞬が犯罪者では、助けることもできないだろう。
会って話しがしたいな、瞬の疲労も、ピークに達していた。
「瞬、どこで結界の張り方を覚えたの?」
瞬は、結界など張っていなかった。でも、確かに洞窟内は察知されないように、結界が張ってあった。
「俺ではない」
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