第1章

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 武蔵でも無かった。どうやら、連れてきてしまった青年の能力のようだった。  『死から来た者』に戻りたいが、誘拐犯では、まずい気もする。  山でも、洞窟に籠っている三人だが、暗さは弊害にはなっていなかった。  瞬と武蔵は、暗闇でも日中でも、同様に見えている。しかも、空間を移動する転移能力者同士なので、出入り口があってもなくても関係が無かった。 「出入り口、塞ぐか…」  入り口を岩で塞いでしまい、中でインスタントのラーメンを作る。水は、湧水があったし、瞬はリュックを持っていた。瞬のリュックは、秘密にしているが、趣味で無尽蔵に食料が入っている。各地の珍味のコレクションも凄いのだ。  瞬のリュックの中に、心配した虎丸のメモも入っていた。  『生水は飲むな。腹を壊す』どんな心配なのかと思うが、向こうでも情報は得ているらしい。瞬は、組織に追われていると、メモで返した。虎丸には迷惑はかけたくない。 「虎丸店長が、俺達の件を察知している…」  そうすると、瞬の兄の高瀬にもバレたことになる。旅行だと嘘をついて家を出てきてしまったので、相当怒っているだろう。それに、誘拐犯として逃走していることも、知ってしまったかもしれない。  『詳細求む』再び、虎丸のメモがリュックに入っていた。 「すごい人なんだけどね…」  いい人とは言えない虎丸だった。瞬と、武蔵がメモを無視していると、リュックの中から手のようなものが出た気がした。 「何?!!」  驚いた瞬と武蔵が、洞窟の壁に激突する程、リュックから飛び退いていた。  空中にメモが飛んでいた。『早く』とある。 「手、出たよね!今」  しかし、虎丸も面白がっているのか、心配しているのか、細かい状況を知りたがっていた。瞬が仕方なく、今までの経緯の詳細を、嫌がらせのように、レポート十数枚にびっしりと書き、送り返した。  虎丸は、闇の中では自由に空間を移動できるが、組織を跨ると、色々と法律に引っかかるらしい。『今は助けられない』と、何故かチョコレートに挟んであった。 「山で、遭難したとでも、思っているのだろうか?」  でも、チョコで思い出す事もある。北神探偵社に来ていた黒猫は、今も元気だろうか。  そう思った瞬間、リュックから『にゃあ』という声が聞こえた気がした。流石に、猫は来ないだろうと思った瞬だったが、手に持っていたチョコが消えていた。 「ええ!?」
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