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埃っぽい道を、小石を弾いて駅へ向かう。
重い足取りで逆向きに歩いたのは夏の名残の夕日が目にまぶしい頃だった。
今日は、今にも泣き出しそうな空模様。
雨か雪が降るかもしれない。傘を持って出ればよかった。
彼の郷里もこことは違った寒い土地だ。冬の暗さと寒さを知っている。
だから温かさを求めるように私たちはお互いを愛する。
白い息を吐いて、ついたホームに、まだ列車は到着していなかった。
待つ。
大丈夫、待つのは慣れているもの。
慣れないのは先が見えないものを追いかけること。
明日、目が覚めた時にどうしたらいいかわからない。何かできるものが見つからない。
私という人間の存在が、とてもつまらなく思えて消えてしまいたくなる。
私はここにいると、聞いてくれる人がいない。
彼は、私を見つけてくれた、認めてくれた。必要だと望んでくれた。
性処理するだけの便所扱いをした男とは違う。
信じてるわ。
つま先が痺れて、鼻の頭まで冷たくなった頃、入線してくる列車の姿が見えた。
来た。
東京方面から到着する列車ががたぴしと、レールを軋らせやってくる。
彼はどこ? 何号車だった?
切符を送ることばかり考えて、指定席番号を控え忘れるなんて、迂闊だった。
探しに行った方がいい? それともここで待ってる?
降りる客と出迎える人でごった返すホームの隅でまごついた時だった。
「さっちゃん!」
心の奥底にまで届く声が彼女を呼ぶ。
心音が何倍にも跳ね上がって、トラックを全力で駆け抜けた時のように脈打つ。
彼だ。
聞き間違うはずがない、蒸気立ちこめる中、颯爽と駆けてくるのは幸宏だ。
右手を伸ばした彼に、力一杯で抱きしめられた。
腕の強さ、温かさ。夢じゃない!
私が知る幸宏だ!
「皆が見てるわ」
照れ隠しで、言い訳めいた言葉しか出ない。
「いいさ、好きなだけ見させてやればいい」
髪を撫でる利き腕の指は、ぎこちなさのかけらもない。
相当治ってきたのね。
よかった。
怪我した右腕や右肩に触れた。
両手で頬を包まれ、額と額を合わす。あと少しでぴたりと唇が触れ合うところまで近づけて、彼は言う、「会いたかった」と。
鼻孔いっぱいに整髪料の香りが拡がる。あんなに嫌っていた香りなのに、今では胸が騒ぐ、大好きな幸宏の存在そのものに変わっていた。
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