【13】歓待

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◇ ◇ ◇ 駅から自宅まではさほど距離はない。少し歩く程度だ。 道中、見知った人がちらちらこちらに視線を送って寄こす。何を言わんとしてるか、耳にしなくても大方わかる。 また野原さんのところの娘が男を連れて来た。 今度はどこのどなたやら。 出戻りの娘と知ってのことかね、物好きもいいところだ。 半分以上は当たってる。昔の私を忘れてくれと願ったところで叶うはずもない。彼らはアカの他人だから。 けれど、幸宏はどう感じているのだろう。 ちらりと見た隣の彼は、小動物が周りを見回すようにきょろきょろと町並みを眺めている。臆するところは何もない。いつもの好奇心いっぱいで、大学で論を戦わせていた頃の少し傲慢な彼そのままだ。 幸子は、彼が追う、見慣れた風景に視線を添わせた。 どう? 彼は。 いくらでも見て下さいな。 とても堂々として気持ちのよい男性でしょう? きっと話すと彼のことがもっと好きになるわ。 私を望んでくれた人なんですから、と。 「手入れが行き届いた、よい門構えだ」 自宅の前に立って、幸宏は言った。 「入り口がきれいだと、招かれている、大切にされてると思えるね。僕たちの家も、玄関はきれいに整えておこう。いつ、誰が来ても慌てないように。どうかな?」 幸子はこくりと首を縦に振った。 嬉しかった。 今日、玄関口を整えたのは父だ。いつもは幸子や母の役目なのに、誰よりも早起きをして、腰を屈めて箒を使ったのは父なのだ。 客間に通された幸宏と、どっしりと座ったままの父は、座卓の向こうとこっちで対峙したまましばらく動かない。 手を着けられない茶は冷め放題だ。 どうしよう。入れ替えようかしら。 閉じたままの襖の向こうを気にしつつ、廊下で動けない幸子に、母がちらちら様子見を送ってくるがどうすることもできない。
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