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信号で立ち止まると女性はススッと男性の目の前に立った。繋いだ手が鎖のように女性の位置を明確にしているので、男性はすぐに信号機から視線を下ろして女性を見る。首を傾げながら口元を優しく上げた仕草は、『何かご用ですか?』と言わなくても伝わってくるようだ。
「今日はただの顔合わせでしょ?なんでいつもより怖い顔してるの?」
「いつもより、と言う事は、いつも少なからず私は怖いんですかね」
「そうじゃないけど、仕事顔って言うのかな。目がこ~んな感じになってるよ?」
女性は片目に指をあてて吊り目を作って見せた、男性は空いている片手を顔にあてながら複雑な表情。無理に笑おうとして苦笑いになっていた。
「今日はいつもと違いますから、少なからず違うのかもしれません」
「違うって、どこらへんが?」
「ここらへんです」
向けられた人差し指の先に居る女性は、キョトンとした表情で男性を見つめた。発言者の男性はというと、今度はしっかり笑いながらまた信号機に視線を戻している。
「まぁそこは後で説明されるので保留しますが・・・。今日が何の仕事か分かってます?」
「だから、ただの顔合わせでしょ?」
「ただの顔合わせだけに私達はここまで動きませんよ」
訳がわからないと文句でも言いたげな表情をしながら、男性の右側へと女性は戻っていった。それと同時に信号が青に光り、人の波に合わせて再び男性が女性の手を引いて歩き出す。
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