光葉館学園

2/19
前へ
/21ページ
次へ
 桃色の桜が咲き誇り、また、舞い降りた花弁は灰色の地面を淡く染める。春の陽気の中に微かな甘い香りを漂わせている春の風物詩。ずっと顔を上げていたくなるほど澄み切った空にはウグイスのさえずりが響き渡る。耳をすませば遠くから潮騒が届く。  海と山に挟まれるようにして発展したこの町の名前は中津原(なかつはら)市。自然がとても近くて私が以前住んでいた田舎町を彷彿とさせるけど、電車で少し揺られれば海外からの観光客を多く見かける繁華街がある。人が多いところは騒がしいけど、いないところは本当に静かだ。そういうところも気に入っている。  中途半端な都会、というのが私……芦原瑞希が抱くこの町に対する第一印象。静かなところが好きな私にとって、中津原の田園風景はとても落ち着く。  まあ、ここに引っ越してきた理由は他にあるんだけど。 「はふぅ…」  フレームレスの眼鏡を押し上げながら、変なため息をつく。木漏れ日が射し込む大きくて神秘的なお寺の前に差し掛かった時、今の自分の服装を見直してみる。今日で着るのは2回目となる真新しいそれは、これから2年間お世話になるものだ。  黒地に赤と金のチェック柄。タイプはブレザー。パッと見『少し派手な喪服』。中は普通のYシャツ。その襟元には大きな赤いリボン。  これは要するに何の服かというと、転入する新しい学校の制服だ。ちなみにリボンの色は、1年生は緑で3年生は青。私は2年次の転入なので赤なのだ。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加