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「この間もそうでしたよねぇ。しっかし、あの路線はちょっとのことですぐに止まるなぁ。もう終電も駄目でしょうねぇ」
コウが利用する在来線は、しょっちゅう止まることで有名だ。大雪はもちろん、ちょっとした土砂や倒木、大量の落ち葉。果ては野生動物にぶつかって止まり、運転見合わせになったこともある。
「えっ、それじゃあ……」
ハルがコウを振り返ると、彼女は大根役者のような白々しい演技で帰宅難民を装った。
「わあ、どうしよう、帰れない」
コウのセリフがあまりに棒読みだったので、二人は同時に失笑した。
実をいえば、路線バスという手段もあるので、完全に帰る手段を断たれたわけではない。それはハルもわかっていた。
ラジオのニュースが終わり、誰かがリクエストした曲がかかる。それはエクストリームの『More Than Wards』だった。
好きなアーティストの曲に思わずハルの顔がほころぶ。そんな彼を見て、コウの顔も同じようにほころんだ。
近付いてくる仙台駅までの風景に、ふと真顔になったハルが黙って首を傾げる。その意味を察したコウは、黙ったまま恥ずかしそうに頷いた。
「運転手さん、駅はキャンセルで。卸町駅の方に行ってください」
肯定するように彼女がにっこり微笑むと、ハルはちょっとはにかんだ。
「明日、車を取り行くの付き合ってくれる?」
もちろん、と彼女は頷いた。
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