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カラン、カラン、とドアベルを鳴らして外へ出ると、九月も半ばを過ぎた仙台の夜は、少しばかり肌寒さを感じるようになる。
「コウさん、寒くない?」
「うん、大丈夫」
差し出された手を握り返し、通りを流しているタクシーをつかまえる。カクテルで祝杯をあげてしまったので、車は明日まで駐車場においてけぼりだ。
「仙台駅まで」
コウの自宅までの在来線は最終電車が十時と早い。今は九時半なので、あまり時間がなかった。
タクシーが通りの流れに乗ると、ラジオの地元AM局では短いニュース番組を放送している。
手を繋いだままハルに振り向くと、当然のように優しく微笑み返してくれる。もうこの笑顔の真意を疑わなくていいんだと思うと、コウはその幸せに胸のあたりがほんわかと温かくなった。
しかし、それと同時に襲ってきた切なさで甘やかな痛みも走る。もっと一緒にいたい。帰りたくない。途端にそんなことを思ってしまうのは、独占欲ゆえのワガママなのだろうか。
そこでラジオから交通情報が流れた。
『……線は、午後八時半時現在、雨による土砂の影響で、上下線とも運転を見合わせています。これにより……』
「今、運転見合わせって言いました?」
ハルの問いに、メガネをかけた五十代くらいの運転手が頷く。
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