闇に潜むモノ

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やぐらとは、山裾の岩盤を掘って穴蔵にした、言わば、中国式の墓所です。 知る人ぞ知る場所だけあって、昼なお暗く、辺りは鬱蒼とした樹木が生い茂り、小動物…、いえ、鳥一羽、虫一匹の気配すら感じる事はできませんでした。 さらには、やぐら入口付近に密集して垂れ下がっている藤の花が、自害して果てた武将たちの無数の手に見えるような気がして、嫌がうえにも、不気味なほどの静寂をより一層、不気味にしていたのです。 ぽっかりと開いた、高さ1メートルほどの薄暗い穴の中には、「北条高時以下870有余名」と記載された、大きな木製の墓標が建っていました。 そして、それを囲む様に、五段に積んだ小石が、幾つも点在していたのを覚えています。 そこは、周りが静寂に包まれていたからだとか、全く人気(ひとけ)がないから、とかいう次元の話ではありませんでした。 おどろおどろしい、とでも言うのでしょうか? 目に見えずとも、何かしら鬼気迫るものがあるのを、感じずにはいられなかったのです。
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