第一章

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「黄泉、起きなさい。遅刻するわよ」  頭が重い。  ここは・・・どこだ?  目をこすって、あたりを見渡す。  見覚えある白い壁。  自分の好きな歴史本を置いてある棚。  高校からつかいなれた机・・・。  ここは、そうか・・・。  しかし、遅刻とか?  俺は近くにあった目覚まし時計の時間を見てフリーズする。 「え・・・ええ・・・姉ちゃん、なんで起こしてくれなかったんだよ」  目覚ましセットしておいたはずなのに…これじゃ遅刻だ。  もしかしなくても、自分で止めたのだろう。  前もそれをやって遅刻しかけた。  そんなことを考えている暇はない。  俺は急いで服に着替える。  まだ自転車を飛ばせば間に合う時間だ。  次の講義に遅れるわけにはいかない。  恐怖の春日教授の民俗学。  授業内容はわかりやすいのだが、何しろ私語や遅刻などに容赦がない。  あとで教授の部屋に呼ばれて小言を言われる。 「姉ちゃん、ご飯いいから。じゃあ行ってきます」 「もう、黄泉・・・」  苦笑する姉をよそに、俺は自転車を軽快に飛ばして大学に急いだ。  俺の名は、十六夜黄泉。  OLをしている姉の彩音とともに、二人で暮らしている。  両親は、事故で高校1年の時に亡くした。  ただ、両親が学資保険で積み立ててくれていたのと、姉ちゃんの勧めもあって大学に進学することになった。  まあ、今時大学にいかないと就職も困る。  大学では、もともと、興味があった歴史を専攻している。  特に日本史。あとは民俗学も好きだ。  姉ちゃんは働きながら、俺の面倒を見てくれている。  だから、姉ちゃんには頭があがらない。  
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