第一章

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 この日は、なんとか授業に間に合った。  急いで自転車を走らせたためか息が上がってしまっている。  椅子に座ってもへとへとだ。  俺は、もともと人見知りが激しい性格だ。  何を話していいのかもわからないし、なんか周りの反応を気にしてしまい、話しかけることができない。  だから、友達はいない。  一人、部屋で黙々と授業を受けるタイプだ。それを悲しいとも思わないけど。  まあ大学の場合、席が決まってないし、講義を受ける人の年もまちまち。  気にしないでもいいという利点はある。  講義のない空きの時間は、大体図書館か家が近いので帰宅するなど、まちまちだ。  昼食も食べに帰っている。  学食なんて使ったこともない。 「であるからして、土蜘蛛は元来・・・」  今日は民俗学でも、妖怪の類の話のようだ。  妖怪でいう土蜘蛛は、顔が鬼、胴は虎のようで、長い蜘蛛のような手足を持っている。巨大な妖怪だ。  ただ、もともとは朝廷に戦いを仕掛けてきたものを鬼や土蜘蛛と呼び、軽蔑し恐れていた。ちなみに、「土隠(つちごもり)」からきたとされている説もある。  まあ、後々に妖怪に仕立てて、異形の者にすればより恐れられるということだろう。  結局人間が作り上げるのだな、妖怪って。 「つづいて犬神は・・・」  犬神はもともと、犬霊の憑き物とされている。いわゆる狐憑きとかと同じく、特に四国が本場と考える説がある。  犬神の発祥については色々とある。  まあ、容姿はネズミの化け物だったようだ。  犬神の憑きやすい家筋、犬神筋の由来は、これらの蠱術を扱った術者、山伏、祈祷者、巫蠱らの血筋が地域に伝承されたものであったようだ。犬神は、その子孫にも世代を追って離れることがない。そのため、一般の村人は、犬神筋といわれる家系との通婚を忌み、交際も嫌うのが普通である。  つまり、この妖怪もまた、人間が作り上げた妖怪。  妖怪をつくって忌み嫌う・・・  なんだか、妖怪は悲しい存在だと思う。 「このように妖怪と人とのかかわりは昔から続いている」    授業がはしばらく続いていた。  妖怪の成り立ち、なぜ妖怪を生み出さなければならなかったのか。  妖怪が奉られ神となり、神が妖怪へと変化する。  厄介なもんだな・・・。  しばらくするとそんな授業も終わっていた。  俺は眠い目を擦りながら、講義室を後にした。  いつもと変わらない日常だ。  
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