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駅の近くまで歩いて、大衆居酒屋に入る。
「店長飲んでいいんすか?」
吉田は夕飯に誘うといつも異常にテンションが上がる。
給料はまだアシスタントだから十分ではないし、タダ飯くらいは食わせてやらないと。
夕飯と言うより、飲みに来たみたいになってしまったけど。
吉田も飲みの方が、テンション上がるみたいで、もうすでに顔が満面の笑みだ。
飲ませ過ぎないように気をつけないと、
吉田は次の日二日酔いと連動してテンションが下がりまくるから危険だ。
接客に影響が出る。
「一杯だけだぞ」
「うぃーす」
「綾野も生でいいか?」
「はい、いいです!」
綾野はオレと目が合ってハッとしながら顔が紅くなる。
綾野って
積極的に攻めてきたり、奥手な女みたいに紅くなったり
二面性があり過ぎて
本当に掴めない。
だけどその綾野のギャップに、ランチに行った時は、なんだか調子を狂わされたんだ。
「店員さん呼びますね!」
「呼ばなくても、そこにコールのボタンがあるから」
「あ、本当だ」
綾野がコールボタンを押し、店員が注文を取りに来ると吉田が元気よく「とりあえず生3つ!」と注文する。
「ちょっと待て」
とオレはメニューを開いて腹が膨れそうな料理を適当に頼んだ。
生が早速運ばれてくると、
「お疲れさまでーす」
とジョッキを合わせる。
ミユキがオレのマンションを出ていってから、こうやって3人で飲む機会が自然と増えた。
トレーニング後は遅くなるし、独りでメシは侘しいし。
「ミユキさんとも一度飲んでみたいなぁ。店長誘ってくださいよ」
吉田はミユキを気に入っている。
それは会話の節々でよく感じていた。
「ダメだよ、吉田くん。ミユキさんは今妊婦さんなんだから」
「はっ? マジっすか?えっ!?ご懐妊?」
吉田は驚いた様子でオレと綾野を交互に見る。
なんだ?そのちょっとショック受けたような顔。
「なんだー、店長、しっかり押さえてますね!」
「押さえてる?どうゆう意味だよ」
「ミユキさん指輪しなくなってたから心配してたんですけど、ちゃんとうまくいってるんすね」
吉田はニコニコ邪気がない笑顔をオレに向けた。
さっきのショック受けたような感じは気のせいだった?
「うまくいってるとも言えないんだけどね」
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