第1章

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ボソッと言ったオレの言葉をスルーして、吉田は話を続ける。 「そうかぁ、だからミユキさん最近体調悪そうだったんですね。 よく気持ち悪そうにトイレ駆け込んでたし。心配してたんすよ」 脱色した髪にカラーチョークで色を何色もつけてる吉田は、その髪を指でいじり始める。 Kポップを意識したヘアスタイルは、ウチのサロンで作り込むのではなく、原宿のお気に入りのサロンで高い料金を出して行っているらしかった。 他サロンに行くのも接客技術を学べるから、むしろ積極的にいくらでも行ってほしい。 「ところで、最近どこのサロンでブリーチした? リタッチの部分、色が馴染んでないぞ」 吉田がミユキの話題の話をしているのを、無理矢理変えて言った。 今のオレとミユキの関係は あまりにもデリケート過ぎて、安易に色々話せない。 しかもオレの子と決めつけてる二人だから、ミユキにもその話題でストレスを与えてしまうかもしれないし。 「あ、今回は美容師の友達の練習台になったんですよ! ブリーチ剤の割合のチョイスを間違えたみたいで、超いい迷惑!」 美意識高い吉田は頬を名一杯膨らます。 「そのムラは直さないと、ウチの技術疑われるから、明日営業終わったら綾野に直してもらえよ」 「……いいですけど……私もそろそろリタッチしたいんですけど、店長やってもらえますか?」 綾野が上目遣いでオレを見る。 「だったら、吉田とやり合いっこすればいい」 「えー、吉田くんに? 店長にやってもらいたいんですけど」 綾野は吉田の技術を信頼していないらしい。 「任せてください!綾野さん、オレ、カラーリングは得意ですから」 「そうだよ、吉田は今までカラーリングでミスした事ないから大丈夫だよ。 今度吉田、ブローのスキルチェックをパスしたらレベルアップにカット技術に移行するか。」 「マジっすか?! オレ早くスタイリストになりたいんですよ!店長よろしくお願いします!」 「その前にブローを完璧にマスターしてからな」 「はい!」 吉田のスキルアップの意欲に、ついオーナーとしても嬉しさが込み上げる。 コイツを雇って良かった、と思う。 やる気ないヤツだけは本当に使えないから。
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