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「あの……財布を盗まれたんです……」
「財布盗まれた!?」
「パスカードをチャージしようとして、バッグから財布を取り出して手元に置いたんです。そしてパスカードを販売機に入れてる隙に財布がなくなっていて……」
「盗られたの気づかなかったのか?」
「ちょっと酔っぱらってて気づかなかったです……」
「はぁ……分かった。今から駅の方に戻るから、綾野は駅前の交番に被害届を出しに行くんだ」
「はい」
「現金以外にも色々入ってたんだろ?」
「はい……銀行カード、保険証、免許証全部入ってました」
「はぁー。マジか。とりあえず向かうから。駅員にも伝えて、すぐ交番に行けよ!」
オレは踵をひるがえして駅に小走りで急いだ。
財布を無くした時の、面倒くささは、オレも一度やっているから
他人事には思えなくて急激に気分が落ちていく。
駅に着くと交番に綾野の姿を見つけて、息を切らして中に入った。
「店長……」
綾野は半べそ状態でオレを見る。
さっきまでほろ酔いでテンション高かった綾野が、こんなに怯えるように落ち込んでいるのが余りにも気の毒で可哀想だった。
「盗難だと、現金が戻ってくるのは期待しないでもらった方がいいなぁ。銀行やクレジットカードの会社の方にはご自分で止めて防犯の処置をしてください。財布は見つかり次第すぐご連絡致しますから」
「はい、よろしくお願いします」
綾野は力なく頭をペコリと下げた。
二人で寒空の外に出ると、オレは綾野の肩に手を置いた。
「災難だったな。しかし、そんな一瞬のうちに盗まれるなんて」
「……はい。私も注意散漫でした。
すみません、店長。戻ってきてもらっちゃって……」
「財布がないんじゃ帰れないだろ?お金貸しておくから……ちょっと待って」
オレは財布を取り出して、一万円札を綾野に渡そうとした。
けど……。
「…………」
そうだ。さっき現金でギリギリ全部払ったんだ。
小銭しかないし。
「もしかして……店長、持ち合わせないですか?」
「ごめん。金貸してやろうと思って来たのに……」
店の売上金も夜間金庫に入れちゃってるし。
経営者の立場でこんなピンチの時にお金も貸してやれないなんて。
しばらく気まずい沈黙が流れて
「だったら……店長のおうちに、泊めてもらえませんか……?」
綾野がおずおずと口を開いた。
「…………」
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