第1章

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そうゆう事を言えてしまうから綾野は度胸がいいというか……大胆というか。 「絶対ないけど、オレが綾野を襲ったらどうすんの?簡単に男の家に泊まらせてなんて言うもんじゃないよ」 オレは呆れて綾野を見下ろした。 綾野はそんなオレの様子に顔色を曇らせる。 「だったらいいです。サロンに泊まらせてください」 「…………」 「サロンに泊まるったって横になれる場所があるわけでもないのに……どうやって…… あー、もう、今回はしょうがない。泊まらせてやるけど内緒だぞ」 渋々そう言ったオレを見上げて、綾野はパァッと顔を明るくさせた。 「すみません、よろしくお願いします。……ミユキさんはいないんですよね?」 「ああ。別居したままだから。」 「店長は何でも秘密にしたがりますね。 私はいいですけど。二人の秘密が増えて」 綾野は意味深な笑みを浮かべる。 「綾野、オレを襲うなよ」 「ちょっと、そうゆう風に言うの辞めてください。私、どれだけ欲求不満なんですか」 綾野はオレを軽く睨んで、頬を膨らませた。 「欲求不満の肉食女だと思った」 綾野をからかうつもりでそう言ったら ますます綾野は不機嫌になった。 「だってバックルームでオレに後ろからいきなり抱きついてくるし」 「あれは、店長が隙を見せていたからいけないんですよ」 「なんだ、そのムリな責任転嫁。仕事中にあんな事するなんて、叱るところだけど」 思い出して、プププと吹き出してしまう。 愛人にしてくれとか言ってたな、そう言えば。 突発的な綾野の奇行にあの時はだいぶ驚いたけど。 「ミユキさんに店長を盗られたくなくて必死だったんです」 「…………」 「ミユキさんが妊娠してしまった以上、私がどう悪あがきしてももう店長を振り向かせる事はムリなんでしょうけど」 「…………」 なんでだろう。 哀しげに告げる綾野がオレと重なって、オレまで哀しくなってくる。 「それでも、私は店長の事が好きです」 綾野は凛とした声で言い放った。 綾野の涙で取れたマスカラがクマになって 綾野の顔は酷い事になっていたけど なぜか 綾野がまた可愛く見えた。
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