第5章 道端に小石

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その日は色んな人に話しかけられた。 クラスメイト、他のクラスの生徒、上級生、教師などなど、今まで顔すら知らない人たちと1日で話をした。もう下校時間だがどっと疲れてしまっている。 「ふぅ、今日はとんでもない日だったな……」 僕はそう呟くとポケットから石ころを出した。今日この石を持っていったからあれだけ人と話すことができた。もしかしたらこれは幸運の石かもしれない。 (神様が何の取り柄もない僕にくれた贈り物、なのかも) そう思い、ふっと僕は笑う。その時、 「しかしあんたも大変ねぇ……。剣道じゃ自分から攻めてくのに、それを使えないなんて」 「そうね。でもそういうあんたも人の事言えないでしょ?」 「う!それは言わないでよ咲希……」 女子生徒の声だ。振り向くとそこには川端さんがいた。隣にいるのは確かうちの剣道部最強の女子で、名前は確か……。 「あ、小道くん。ごめんちょっと先言ってて。彼に用事があるから」 「咲希が男子に?……ふーん、まあいいわよ。私はお邪魔だろうからね」 「そんなんじゃないわよ!」 その女子生徒はどうだかね、と笑みを浮かべるとその場を去った。そこには僕と川端さんだけが残った。 しばらく静寂の間。彼女も俯いたまま話さず、僕もどうしてよいか分からない。 (え、な、何なんだ……?いったいどうすれば、いいんだ?) 心の中ではそう思いながら焦っている僕。すると川端さんが口を開いた。 「……ありがとね」 「え?何が、……ですか」 「敬語じゃなくてもいいよ、同学年なんだしね」 彼女は笑って見せる。その笑みに僕は緊張してしまう。すると彼女は、 「いや、私が話そうとするのを待っててくれてるんだなと思ってね、気遣わせちゃってごめんね」 「い、いやいや、そんなことはないよ!た、ただ僕は、人と話すのが少し苦手っていうか……」 「そうだろうね。今日皆に話し掛けられてたけど困ってるみたいだったしね」 う、と僕が言葉に詰まる。川端さんはやっぱりと言うと、 「小道くん、あまり人と話さないもんね」 「ま、まあそう、だね……」 「でも話せるようになるのも大事なこと。挑戦することも大事よ。……何事にも恐れずにね。それじゃあ!」 彼女はそう言うと微笑みを浮かべ、手を振りながら去っていく。僕はその場にしばらく佇むしかなかった。
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