9人が本棚に入れています
本棚に追加
その日は色んな人に話しかけられた。
クラスメイト、他のクラスの生徒、上級生、教師などなど、今まで顔すら知らない人たちと1日で話をした。もう下校時間だがどっと疲れてしまっている。
「ふぅ、今日はとんでもない日だったな……」
僕はそう呟くとポケットから石ころを出した。今日この石を持っていったからあれだけ人と話すことができた。もしかしたらこれは幸運の石かもしれない。
(神様が何の取り柄もない僕にくれた贈り物、なのかも)
そう思い、ふっと僕は笑う。その時、
「しかしあんたも大変ねぇ……。剣道じゃ自分から攻めてくのに、それを使えないなんて」
「そうね。でもそういうあんたも人の事言えないでしょ?」
「う!それは言わないでよ咲希……」
女子生徒の声だ。振り向くとそこには川端さんがいた。隣にいるのは確かうちの剣道部最強の女子で、名前は確か……。
「あ、小道くん。ごめんちょっと先言ってて。彼に用事があるから」
「咲希が男子に?……ふーん、まあいいわよ。私はお邪魔だろうからね」
「そんなんじゃないわよ!」
その女子生徒はどうだかね、と笑みを浮かべるとその場を去った。そこには僕と川端さんだけが残った。
しばらく静寂の間。彼女も俯いたまま話さず、僕もどうしてよいか分からない。
(え、な、何なんだ……?いったいどうすれば、いいんだ?)
心の中ではそう思いながら焦っている僕。すると川端さんが口を開いた。
「……ありがとね」
「え?何が、……ですか」
「敬語じゃなくてもいいよ、同学年なんだしね」
彼女は笑って見せる。その笑みに僕は緊張してしまう。すると彼女は、
「いや、私が話そうとするのを待っててくれてるんだなと思ってね、気遣わせちゃってごめんね」
「い、いやいや、そんなことはないよ!た、ただ僕は、人と話すのが少し苦手っていうか……」
「そうだろうね。今日皆に話し掛けられてたけど困ってるみたいだったしね」
う、と僕が言葉に詰まる。川端さんはやっぱりと言うと、
「小道くん、あまり人と話さないもんね」
「ま、まあそう、だね……」
「でも話せるようになるのも大事なこと。挑戦することも大事よ。……何事にも恐れずにね。それじゃあ!」
彼女はそう言うと微笑みを浮かべ、手を振りながら去っていく。僕はその場にしばらく佇むしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!