第5章 道端に小石

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あれから数日、僕はまだあの石を持っていた。 あの日から多くの人と話した。すると意外に楽しいと感じ、何となく悪い感じはしないと思い始めていたからだ。 たくさんの人と話す、それはもしかしたら楽しいことなのかもしれない。しかしそれと同時に僕は何か違和感を抱いていた。 そう、何か違うと。”僕は本当にそう望んでいるのか”、と。本当はもっと違うことを願っていたのではないか、と。 しかし僕は首を振りそれを振り払う。 (違う、僕はこの自分を変えようと思っているからこの石を授かったんだ。決して誰かに好かれようとか、そんなのではない、はずだ!) 僕はそう考えるのだが、何故か納得できない。心のどこかでそれを本心だと認めきれないのである。 (何なんだこれは?僕の願いは、人と話せることじゃないのか……?) うーんと考え込む僕。その時、誰かとぶつかった。 「あ……!すみません!怪我はないですか?」 「ん?ああ、怪我は無い。そっちこそ大丈夫か?」 僕が謝りながら言うと相手は平気そうに答える。相手は僕と同じ1年生のようだ。無造作に整えられた髪に少し冷めたような目、そして何より目を引くのは鼻に横一文字に付く傷だ。 (や、やばい……。かなり恐い人とぶつかっちゃったかも……) 僕がそうおののいていると、彼は僕の足元を指し示し、 「それ、君のか?俺は持っていなかったから違うと思うが」 その言葉に僕も自分の足元を見る。するとそこにはあの小石。どうやら先程ので落としてしまったらしい。 「あ、ああ!そうです、僕のです!いやぁ、無くしたらどうしようかと……」 そう笑いながら拾おうとした、その時。ふとあることが蘇った。  それはある人の顔だ。女性の顔だ。どこかで見たような顔だ。そしてその顔を見ると何故か今まで考えてた事が吹き飛び、胸のつっかえが取れた。 ああ、そうだ。僕は大事なことを、人を忘れていたんだ。そう、僕の願いは多くの人と話すことではない、彼女に思いを伝えること。 (そうだ川端さん……。僕は川端さんに想いを伝えなくちゃいけないんだ……!それが僕の本心なんだ!)
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