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佐山は常に集団の輪の中にいた。どこに行くにも、何をするにも、必ず側に人を連れている。周囲が笑みを浮かべている中で、彼も皆と同じ表情をしているにも関わらず、その瞳には感情が篭っていない。まるで、どこかに心を落としてきてしまったようだ。彼の纏う空気は、どんよりと重苦しい輝きをしていた。
その佐山が、教室にいなかった。その行方を知る生徒も、珍しくいない。それに気づいたのは、下校時刻を知らせる放送が鳴ってからだ。
隆生はふっと意識を浮上させて、ヘッドフォンを首にかけた。
「凄い集中してたね」
近くに座っていた彼女が目前に立っていた。鞄を肩にかけ、いつでも帰宅する用意が整っている。
周囲を見渡すと、すでに下校した生徒もいるようで、教室には半分以上の生徒がいなかった。
「相田さん、ノートありがとう」
「あれ、名前教えたっけ?」
「ノートに名前が書いてあった」
彼女はノートを受け取り、どういたしまして、と最初のお礼を甘受した。
「あれから、声がかからなかったから気になってはいたんだけど、集中してたみたいだから邪魔しちゃ悪いと思って声かけなかったんだ。わからないところとか、なかった?」
「相田さんのノートのおかげだ。綺麗に纏まっている。とても役に立った」
「そっか。良かった」
隆生は教材を鞄に直して、帰宅準備をする。
「あれ、佐山は?」
その名前を出された途端、隆生の心臓はドクンと大きく跳ねた。
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