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音楽室か屋上。彼女がその二択を思い浮かんだのは、佐山の行き先を把握できるほど、彼女は多くの接点を持っているということ。
何気ない言葉や行動から、隆生は深く考えを巡らせる。憶測だけで、自分が都合の悪いように考えるのは良くないと思っていても、考えを止められない。二人の関係性を考えると、胸の奥がキュゥと締まった。
不意に太陽の陽が目元に差し込んだ。廊下の窓から見る景色は、まるで絵の具を何度も重ね塗りをしたような真っ赤な空だった。美しい景色を眺めていると、頭がすぅと冴えてくるように感じた。
きっと佐山はあの場所にいるだろう。根拠もなく、そう思った。
校内の案内図を見て、音楽室に足を向ける。薄暗い部屋の前に着き、半分ほど空いた戸から中を覗いた。
椅子に座り、ギターを持って、佐山は空を見上げていた。弦に指を当て、確かめる程度に音を鳴らす。息を漏らすように小さな声で歌う。
その歌声は、迷走しているように感じた。
背中から陽が当たる。隆生の足元から影が伸び、佐山の影と重なった。
「……広瀬?」
佐山が振り返った。隆生の手元の鞄に視線を向けて、ああ、と納得する。
「よくここがわかったな」
「相田さんが教えてくれた」
「由美が、ねぇ」
「ユミ」ーー彼女の名前。お互いを名前で呼び合うほど、彼らは仲が良いのだ。
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