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曲として形が出来上がったら、このフレーズはサビの部分だろう。とても短いけれど、何かを訴えるような迫力があって、それでいて美しい鋭さがある。
それを繰り返し繰り返し、彼は歌い、弾き続けた。
不意に彼は音を止め、顔を上げた。隆生を不思議そうに見る。
「なんでずっと突っ立ってるわけ? 座れよ」
顎をクイっと動かして、彼は近くの椅子を指した。
隆生は指定席に座り、すぐ側で彼の音を聴いた。心臓の鼓動が大きく鳴り響く。音と重なって、邪魔にすら感じるのに、鼓動は鳴り続ける。
彼の音を耳で聴き、彼を目で見る。なんて贅沢なことか。
惚ける隆生の顔は、夕陽に当たって余計に赤く染まっていた。
すぅ、と佐山の瞳が隆生を捉えた。
更に隆生の顔の熱が増す。思わず、「ぁ……」と、口から声が漏れた。
「見過ぎ」
佐山はふっと笑った。
音を止めて、ギターを壁に凭れさせた。彼は身体の向きを変えて、隆生と対面する。左手が隆生の膝に伸びた。
膝に触れられた瞬間、ゾクゾクと寒気のようなものが隆生を襲う。
「お前さ、ずっと俺のこと見てたろ?」
ひゅっと隆生の口から息が漏れた。
「普段からあんな目で人を見るわけ? それとも俺だけ?」
「み、見てない……」
「無意識だったら質悪いぞ」
「何、言って……」
「お前の目、変な感じがするんだよ」
「へ、変って……?」
「すげぇ、いじめたくなるってこと」
話している間も、佐山の手が徐々に太腿の付け根まで上がってくる。
親指が内側の際どいところをさすられて、隆生は、ひぅっと声を上げた。そして、驚愕により後退していた身体が椅子から落ちかけた。
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