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「危ねぇ……っ」
佐山は身を乗り出して、隆生の背中に手を回して、落下するのを防いだ。
彼との距離が更に縮まる。熱で犯されるように身体が火照る。
佐山は隆生を引き寄せる。
互いの顔が近づいていく。ドクドクと隆生の鼓動が鳴る。やがて、佐山に片手で抱きしめられ、彼の顔は肩口に伏せられた。
「佐山……?」
「……この曲、売れると思うか?」
不安を隠しきれない声で、彼は言った。
「……わからない」
「そうか……」
「曲の良し悪しは、聴いた人にしかわからない」
「まあ、そうだよな」
「それ以前に、自分の曲を好きにならないと誰も好きになってくれない」
「……そうだな」
背中に回された彼の手がぎゅっと力を込められた。
「最近、客の前に立つと考えるんだ。本当に俺の歌を聴きに来ているのか、俺の曲は評価されるほど良いものなのか。まるで客を疑うようなことばかり考える」
「…………」
「そんなことばかり考えてると、自分がどうやって曲を作って、どんな気持ちで歌っているのか、分かんなくなってきた」
「…………」
「テレビや雑誌の自分の姿を見ると、歌よりも容姿を評価されるているように思える。お前の歌に興味はねぇと言われてるみたいで……」
「…………」
「はは、すげぇネガティブだよな。俺らしくもねぇ」
何かを訴えるような歌は、彼自身のことを表しているのだろう。
苦しくて溺れそうなのに、前に進まなければいけなくて足掻いている。
その姿でさえ、眩しいものに見える。
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