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広瀬隆生は、ヘッドフォンの外から聞こえてきた爆音に顔を上げた。
視界一杯に広がったものは、『Violent』を宣伝する広告塔だ。四方八方に立つ広告塔が、映像やポスターなどで、彼らの最新情報を流し、CMとして取り上げていた。
隆生は持っていた本を栞を挟まずに閉じてしまった。ヘッドフォンを外して、その映像に夢中になった。
美しい容貌をした男が先頭で歌い、メンバーの誰よりも大きく取り上げられていた。男の歌声は、日本中の視聴者を湧き立たせる。
たった数秒間の映像であったが、隆生が魅入ってしまうのに、十分な時間だった。
「あいつの声、いいなあ……」
隆生の口から感嘆が漏れた。
CMが終わるのとほぼ同時に、目前の信号が青に変わる。
隆生はヘッドフォンをかけ直して、本を鞄に入れて、信号を渡り始める。ヘッドフォンから流れる彼らの曲を初めに戻して再生する。隆生の耳には、もう好きな声しか聞こえない。
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