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現在は、六月。隆生は高校二年生だが、今年に入って登校するのは初めてのことだった。
校門を通り、下駄箱まで着くと、うろ覚えな自分の下駄箱を探し出し、上靴に履き替えた。
普通なら周囲と同様に、次は自分の教室に向かうべきだろう。しかし、隆生は自分の教室の場所どころか、クラスも知らない。そのため、案内をしてくれる人が来る約束なのだが、どうやらまだ来ていないようだ。
ヘッドフォンを外して、首にかける。下駄箱の近くで、壁に凭れて読書をしながら時間を潰していると、通り過ぎる生徒らの視線がなぜかちらちらと自分の方に向けられているのを感じた。素知らぬふりをして、文字の羅列だけに目を向ける。
「広瀬、こっちだ」
ようやく待ち人が来て、ほっと安堵の息を吐く。鞄に本をしまい、担任の先生の元へ向かった。
「おはようさん。久しぶりだな、身体は大丈夫なのか?」
「大丈夫です」
担任の先生である伊藤は、隆生が一年の頃からお世話になっている。普段から気怠げな態度ではあるが、性根は真面目な性格で生徒思いだ。入学当初から、隆生のことを心配し、いろいろ気にかけてくれている。
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