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佐山の口元がゆっくり緩められる。隆生に向けられた彼の表情はとても妖艶で、直視した隆生には刺激が強かった。
背筋からゾクゾクと何かが這い上がってくる感覚がした。このまま彼の漆黒の瞳を見続けては、ダメだ。その瞳に引き寄せられる──。
「広瀬くん!」
はっと我に返り、意識を浮上させる。
隆生の前には、先程の女子が立っていた。彼女は少し拗ねたような顔をして言った。
「また聞いてなかったでしょう。広瀬くんとの勉強会、皆ですることになったから!」
彼女の言葉に、隆生は目を張る。
周囲を見渡すと、クラス全体が盛り上がって話し合っている。大勢でするようなものではないのに、皆和気藹々とした雰囲気でいる。その内容は、趣旨が勉強会であることを忘れ去られているようなものだった。
「勉強会って言ってなかったか……?」
「勉強会よ」
「でも、勉強するのに買い出しとかいらないと思うんだが……」
「頭を使ったらお腹が減るじゃない。買い出しは必要よ」
「でも、皆で写真を撮るって……」
「何事も一致団結するのは良いことよ」
「勉強に一致団結する必要はないだろ」
「あるわ。皆、楽しいじゃない」
隆生は目眩がしそうになった。彼らは勉強会と称して、皆で遊ぶ計画を堂々と練っている。彼らが楽しむという目的であれば、隆生が参加する必要もないのではないだろうか。
「広瀬くん。放課後、ちゃんと残っておいてね」
最後にそう言い放たれ、隆生は諦観の息を吐いた。
いつのまにか、身体の熱は収まっていた。安堵する一方で、自分の奥底で僅かに名残惜しさが燻っていた。隆生は身体に残る熱の余韻を逃すようにして、そっと息を吐いた。
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