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隆義は夢の中に立っていた。しかし、眠る前にやっていたゲームのせいか、それとも窓の外の雷と強風の音のせいか──
「……何だ、これ」
周りを見て、呟く。そこに広がるのは、誰もいない街の光景だ。空は黒く染まり、地上は瓦礫と僅かな灯りしか見えない。ビルが立ち並んでいるが、車も、人も、誰もいない。
「……どうなってんだ」
呆然としたまま、しばらくその場に佇んでいると、空から雨が降ってくる。冷たさは感じないが、隆義は本能的に雨宿りする場所を探した。
「屋根──あっちに行こう」
すぐ近くに、見覚えのある電車の駅……市内の市電のそれだ。建物はボロボロだが、どうやら街の中心部にいるようだった。とぼとぼと、ゆっくりとした歩みで、屋根の下へと移動していく。
さて、ゲームをしている間は集中して気にしなかったが、隆義は再び、正体不明の声が何だったのか──それを考え始めた。
自分の体に異常が生じたのか、散々殴り蹴りされた傷によるものなのか、それとも──
「どしたん? ずっとかんがえこんで」
だが、隆義は無言で考え込んだまま、その声に気付かない。
「ねぇ……?」
「んー……」
「おーい」
ぴょこぴょこと、隆義の横で誰かが動いている。
「もしもーし」
「静かにしてくれ、考え事してるんだ。」
ようやく気付いた隆義は、声の主に顔を向ける。
「かんがえごとー? なにをなやんどるん?」
赤い着物を着た、髪の長い少女。目の前にいるのは、まさにそれだった。
「だいじょうぶ?」
「あ……。」
そして、少女が発した一言が、隆義の記憶に残った言葉と完全に一致する。
「あの時の声──もしかして、君なのか?」
隆義がそう言った瞬間、目の前の全てが光に包まれていった。
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